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【SWIsr】どんぐり王国の秘密を探る!

#子育て支援 #不登校支援 #ひきこもり支援 #地域づくり #人生物語

どんぐり王国事件発生!?

社会課題を解決するために独自の活動する展開する人や団体を取り上げ紹介するソーシャルワーカインタビュー【SWI】。今回スポットを当てるのは、

子どもの不登校やひきこもりなどの相談をはじめ子育て支援に長年取り組んでいるNPO法人どんぐり王国の国王である兵頭信昭氏です。

西予市宇和町明間にある観音水。日本の名水百選に選ばれており、ひと口飲めばその冷たさと美味しさが五臓六腑に染みわたります。その水は鍾乳洞から流れ出る弱アルカリ性の水で、日量およそ8000トン。山の中腹を轟々と音を立て流れています。その観音水から少し下ったところに今回の訪問先どんぐり王国はあります。

実は筆者がどんぐり王国のことを知ったのは10年ほど前のことです。以来数年に1度訪れ、国王に拝謁頂いているのですが、今回約1年ぶりに訪れたところ、一見いつもと変わらぬ王国風景なのですが、ひとつ大きな事件(⁉)が起こっていました。まずはそこから紹介したいと思います。

ところ変わり愛媛県松前町。人口3万人ほどの小さな町ですが、湧水が豊富で裸麦の生産高は日本一です。この町の歴史的偉人に義農作兵衛という人がいます。

江戸時代享保の大飢饉の時、人々は食べる物もなく、餓死者が続出しました。こうした中で、作兵衛は、毎日休むことなく耕作に精励していましたが、遂に飢えのため、田んぼに昏倒してしまいました。

 近隣の者が、「命に代えられぬでの、その麦種を食べてはどうか。」と勧めましたが、作兵衛は「農は国の本、種子は農の基。一粒の種子が来年には百粒にも千粒にもなる。僅かの日生きる自分が食してしまって、どうして来年の種子ができるか。身を犠牲にして幾百人の命を救うことができたら私の本望である。」と言い、麦種一粒食することなく後世に残し、大義に死にました。(松前町HPより)

この作兵衛の他者を思いやり自己犠牲をもいとわぬ精神は「義農精神」として、今日も脈々と受け継がれています。松前町ではこの義農作兵衛の顕彰と町の全国的知名度の向上を目指し令和3年度に「義農大賞」が創設されました。

そして全国から他者を思いやる心・義農精神を持って活動を行っている個人・団体を募集したところ160以上の応募があり、その中からなんとどんぐり王国は第1回の義農大賞に選ばれたのです!(どんぐり王国ほか1団体)

大賞に選ばれた団体には、その活動に密着して制作した功績動画が製作されました。Youtubeにアップされていますので、まずはご覧ください。

この動画にどんぐり王国のすべてが詰まっていますのでインタビューは割愛させて頂きます!
と、したいところなのですが、動画のナレーションで

「私たち不登校やひきこもりの子どもを抱える親にとって、理論や理屈の子育て支援は、時に親の子育てを責められるような孤立感を持ってしまいます。」と最初に出てきます。

実は筆者も王国で「いろいろな支援機関を訪れても、そんなことは分かっている!ということがほとんど。でもここに来て初めて分かってもらえたという安心感を持つことができました。」ということを聞きました。

そこで今回は兵頭国王のアドバイスや支援方法はどのようなものであり、何が違うのかということを、インタビュー等を交えつつその秘密に迫ってみたいと思います。名付けてソーシャルワーカーインタビュー(スペシャル)レポート【SWIsr】

国王の秘密

 1. ロケーション~場をつくる~

まず初めにどんぐり王国の特徴をあげるならば、何と言ってもそのロケーションにあります。先に書きましたが、王国は名水観音水の流れる山腹にあり、動画で見て分る通りいかにものどかな場所にあります。そして王国の入り口は、「ここから世界が変わります!」と言わんばかりの雰囲気です。

この里山風景にメルヘンをプラスしたような空間を、国王は子育て相談にも大いに利用しているようです。問題を抱えた親子から話を聞くに際して

「断然ここ(どんぐり王国)で聞く方が効果的やね。この辺はロケーションに助けられているのだろうけど、ここではその人を見て、どのように登場するかを考えることもできる。ここでどういう登場の仕方をするか、どのように向かい合うかは、特にお母さんと子どもが一緒に来ている時に使う手。」

と話されます。最初の登場の仕方から支援は始まっているのです。

けれども国王は、決してこのどんぐり王国を「不登校やひきこもり」という社会問題に取り組むためにつくったわけではありません。

「畑で野菜を作ってみたり、自然の中で木工やリースづくりなどのクラフトをして楽しんだり、山菜取りや魚釣り、うまいものを集めてアウトドアの料理を楽しんだり、時には動物たちとも触れ合い、馬にも乗ってみる。いわゆる自然の中の醍醐味を味わうことを一番の目的としています。」
「遊びの発信基地であったり、居心地の良いナチュラルスペースであったらよいと思っています。」(「ビバ!お母ん」より)

支援を目的とした場所ではなく、みんなで自然の恵みを楽しむ場所であるからこそ、課題を抱えた親子であっても、心のバリアを外しやすくもなれるし、自然な状態にも戻りやすくなるのだと思います。

また子どもたちとの交流に関して国王は次のようなことを話されました。

「うちは不登校児だけを集めてキャンプをしたことなど一度もない。みんなのキャンプの中にそういう子が入っていたことはしょっちゅうあったけど、そうやってこっちは本人に卑屈な思いをさせないようにやっている。」

あくまでもナチュラルな状態の中で自然解凍をするようにしているのではないでしょうか。

どんぐり王国は遊びの基地である他にもう一つ目的があります。「心のふるさとづくり」です。それはどんぐり王国のホームページに掲げられています。

のんびり、ゆったり、
心の中のふるさとづくり

山あり、川ありのありきたりの自然の中、

動物がいて、人がいて・・・

みんな心の中にふるさとを持っている。

(中略)

心の中のふるさとづくり

それが、どんぐり王国の夢。

課題を抱えている親子、そうでない親子、どちらにも心の中にはふるさとの風景があり、それは日本人であるならば同じような風景となるのではないでしょうか。故郷の中では自分自身に戻りやすくもなりますよね。

まちなかの相談ではどうしても壁に囲まれた空間で行うことになってしまいます。またそこでは「子育て支援に関する相談」などとその目的ははっきりしています。そこで相談者が支援員(専門員)と向き合うことは、必要以上に緊張感を伴うこととなるのではないでしょうか。場づくり、雰囲気づくりって大切ですよね。

自然や遊びの要素を存分に取り入れる。国王ならではの作戦です。(けれども国王にもどうにもならないことがあります。それはこちら(^^;))

 2. 観察力(洞察力)を養う

先の場づくりで「その人を見て、どういう登場の仕方をし、どのように向かい合うかは、特にお母さんと子どもが一緒に来ている時に使う手」とありますが、それは国王がその親子が王国に到着してから相談室(小屋?)の席に着くまでを観察しているということも意味しています。

今回兵頭氏へのインタビューを通じて国王の観察力、洞察力の鋭さを感じずにはいられませんでした。

「普通子どもと話しをしたり、子供のしぐさを見たりしたら、大人はどんな人でもこの子はこんな子なんだろうと想像をする。その子がどういう子どもか読むのが下手な人な人もいるけれど、そういう読みが昔から鋭いかったように思う。学校の先生に会った時も、この先生の嫁さんはこんな人やろなと思ったら、大体あっていたりするよ」。

「松山で相談に乗っていた時、お母さんが『こんちには』と言ってきたときに、大体どの子どもの相談か分かっていた。」

「ここ(どんぐり王国)で親と相談するとき、じいちゃんばあちゃんがいるなら、一緒に連れてきてくださいという。でもそれが難しいなら、先にお母さんと話をして、僕のことを知ってもらってから連れてきてもらうけれど、大体頭に描いていたようなおじいやんおばあちゃんであることが多い。」

「家の間取りとか食卓の坐る場所とかを当てるとすごくびっくりされるんやけど、お母さんとの会話で予測がつく。」

「ファミレスの家族の座り方、家でのテーブルの座り方など、母親がどこで、父親がどこ、お兄ちゃんは、娘がどこか大体想像がつく。」

と、「ヘエ~、何故そんなことが分かるの??」と不思議に思うことばかりなのです。
ではその観察力・洞察力はどこで養われたかというと、もちろん長年数々の相談を受ける中で養われたのでしょうが、それだけでもないようです。

兵頭氏は大学を卒業してすぐに子育て支援に携わってきたわけではないそうです。大学時代に空手を習い始め、まだ黒帯にもなっていないころから子どもたちの空手の指導を任されるようになり、遂にはご自分で空手道場を開き、80人ほどの弟子(?)を持つようになったそうです。

また奥さんが始めた塾を手伝う中でいつしか塾長となり、独自の手法を編み出し、子どもたちの学力向上に導いていったそうです。そのいずれにも観察力・洞察力を養うもととなるのですが、具体的な内容については紙面(?)の都合上割愛します。(機会があれば是非どんぐり王国を訪れ、数々のエピソードを聞いてみてください。著書「ビバ!お母ん」にもいくかのエピソードが書かれています。)

 3. 自分の言葉で話す&そのために経験を積む

初対面の登場シーンから考えている国王ですが、実はその後に続く言葉があります。

「素人なりにずっと考えてきた。出来るだけここに来た時に、どのような話しをするか言葉を選ぶ。」と。

ではそれらの言葉はどこから出て来るのか聞いてみたところ

「体験したりしているのだろうねえ。心理学を勉強した時もこういうことなんかと思ったことなどひとつもなかった。それでも中には心理学的な本を読んだ時に、『あ、自分だけでなくこの人もこういう風に考えているのか』と分かってホッとしよったことがあった。」

つまり国王は数々の体験を通じて、いつしかそれらが論理化されているのです。そしてそれをお母さんたちに話しているのです。国王は言います。

「学校にずっと(支援の相談に)行っていると、理屈の分かっている先生は一杯いるんよね。だからよく「〇〇現象ですよね。」「子供の〇〇心理ですよね。」とかいうけど、そしたらその理屈通りにやってみたらどうですかと言ったら、みんな引くんよね。

なんで心理を勉強するかというと、その心理の裏をかく。そういう心理があることが分かっているんだから、その裏をかいて何かをする。けれども実践をしたことがなく自信がないからそういうことをやらない。

塾でも集団心理みたいのがあって、この子は(勉強が)出来んかったり、騒ぎよったりしても、注意したら、委縮して二度と塾に来なくかもしれない。なんでそうなるか(講師は)みんな知っている。知っていれば知っているほど、自分がビビってしまってできん。」

現在福祉的な支援に当たる人の多くが保育士、心理士、社会福祉士などの資格を持つようになっています。その資格を取るためには年月をかけ数多くの科目を勉強しなければなりません。けれどもそこにあるのは理論です。その理論をひたすら頭に詰め込むようになります。もちろん理論も大切なのでしょうが、それ以上に大切なことはそれを応用して自分のものとすることこそが必要なのではないでしょうか?

 4. 哲学を持つ

子育て論を語る中で国王が怒りをあらわにしたときがありました。

「哲学も持たずにデーターだけで喋っているやつがおる。」

と。では、兵頭国王の子育てに関する哲学とはどのようなものなのでしょう?

国王の話すこと、その存在、どんぐり王国自体がすでに哲学でもあるようにも思うのですが、先に「心の中のふるさとづくり」をどんぐり王国の目的としてホームページに出てくることを書きましたが、中略部分には次のように書かれています。

にんじんの種をまいたら、
にんじんの芽が出るんだよ。

大根の種をまいたら
大根の芽が出るんだよ。

無理に育てようとしなくても大丈夫。

ちゃんと畑を作っていれば、

にんじんはにんじんに、

大根は大根になるんだよ・・・

当たり前のことが当たり前に
なるように・・・

そんな所があったらいいね。

これぞ国王の子育て哲学だと思うのです。

これは私の推測ですが、例えば、
人参の種を蒔いたにもかかわらず、大根の芽が出ないと嘆いたり、
ほうれん草の種と思って蒔いたら、実はカブの種であり、ほうれん草が育たないと怒ったりと、そんなことはないですかね???

もしそんなことがあったら人参ちゃんもカブ君も困っちゃいますよね…。

でも、相談に来られる方って、ちゃんと畑を作っているからこそ、困りもすれば相談にも来るのではないでしょうか?ましてや高速を使って王国まで…。だからどんな種か分かれば問題解決の糸口もつかめるのではないかと…???

私たちも支援していく上での哲学、生きていく上での哲学を持たなければなりません。そのためにはやはり経験を積み重ねていくことが大切なのではないでしょうか?

 5. 懐深さ

最後に、最近自信のない子供、迷いのある子どもも多いと思うのですが、子供の成長に最も必要なものは何かを聞いてみました。

「漠然とした言い方だけど、懐の深い大人が必要ではないか。それは学校の先生であっても親であっても何でもいい。今子どもを尊重するがあまり、子供に任せているんですよと親は言うけれど、昔の親は、子供にこう育たなければならないといよった。

自分らしく、思ったように生きていくのがいいと思いますと言っても、まだ10年ぐらいしか生きていない子にそういっても酷やと思う。そりゃ親もそうやって生きてきたならまだしも、それができとる親は皆無に等しいのではないかと思う。だからその辺の親と子どもの違い、経験の違いかもしれんけど、子どもに対して大人と呼べる人が子どもには必要なのではないか。

勉強ができるとか、いろいろな知識を持っているというのは、大人でなくてもできること。その辺の百姓をつかまえてものをいうたら、子どもみたいな奴やなというのもおれば、百姓でもよく考えた人だなと思う人もいる。だから職業とか経験とかでなくて、懐の深い大人と呼ばれるような人が子どもの周りに何人かいてくれれば…、そんな大人が子どもたちには必要でないかな?」

ということでした。
哲学もそうですが、親も支援者も懐深い大人になることを目指さなければなりませんね。

牛舎の学び

いかがでしたでしょうか。今回は筆者なりにこれまでいくつもの子どもに関する問題を解決してきた国王の秘密を解読してみました。

ところで、(これは私だけかもしれませんが)国王と話しをしていると、時々禅問答のように感じられることがあります。それは時に雲をつかむようなものに感じられることもありますが、決して難問奇問で頭を悩ませるようなものではなく、自分自身に時間を与えてくれるように感じられるのです。

対話を通じて自分自身を振り返ったり、自分の考えを巡らせまとめたりする問いかけなのです。

きっと国王はある人には、「AはBですよ。」と言えば、ある人には「AはBではないですよ。」と、その人をみてそれぞれに使い分けているのではないでしょうか。そうやってお母さんたちの成長も手助けしているのではないかと思うのです。

帰りにどんぐり王国第2農場に寄り牛舎を訪れました。そこでは子牛が小さな柵の中に入れられていました。遠くに母牛がおり、私が子牛に近づくと子牛は驚いて後ずさり、体を2,3回ドンドンと柵にぶつけてしまいました。すると母牛が私を鋭い目つきで見ながらゆっくりと近づいて来ました。

母牛はこれ以上子どもを脅かすならばただじゃおかないよと目で語って来ます。私は後ずさる以外にありませんでした。ここでも何か親子のあり方というものを見せつけられたように思いました。

王国の至る所に、仕掛けをしている国王です。

ちなみに王国の地面は基本土なので雨の日に地面はぬかるみますし、坂も多く、段差もたくさんあり、物理的なバリアフリーはありません。

けれども国王も年には勝てないようで、近ごろ荷物を背負って畑の坂道を上がるのが大変になってきたとのことで、畑をバリアフリーにできないかと考えてもいるようです(???)数年後にはどんぐり王国バリアフリー農園が出来きているかもしれません(^^)


NPO法人どんぐり王国
住所:愛媛県西予市明間1766番地
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参考文献
「ビバ!お母ん 自遊郷・どんぐり王国からの発信」 兵頭信昭著 (創風社出版)


インタビュー:2022年(令和4年)8月

レポート:Eikyo