【SWI】そらいろのたね店主 野中玲子さん~後編~
#子育て支援 #シングルマザー支援 #こども食堂 #社会福祉士 #人生物語
目次
野中さんの目指す社会
社会課題に対して独自の視点と活動でその解決に取り組む人にスポットを当てたソーシャルワーカーインタビュー【SWI】。シングル―マザー支援と子育て支援に取り組む野中玲子さんへのインタビュー第2回目をお届けします。
前回シングルマザー支援の活動や(コロナ禍での)子ども食堂の活動を主にお伝えしましたが、今回は野中さんの持つ社会福祉士という国家資格に関すること、そして野中さんの目指すバリアフリーな社会についてのお話しです。
社会課題の解決に必要なもの
社会課題を解決するにはお金も必要ですが、そのお金を稼ぐことが難しいことも多いですよね。そのような中で続けていくために必要なものは?
「人」ですよね。「これは誰に相談したらいいかな」と考えると、たいがい思いつくんですよ。あの人にとか、この人にとか。やっぱり人ですね。
「人」とのつながりがこれまで続けて来られた理由?
そうですね。私は本来人見知りで、新しい友達いりません、ママ友いりませんというタイプだったんです。親友が2、3人いれば、あとは面倒だから構いませんと思っていたのだけれど、社会福祉士になって変わって、名刺を受け取りながら「この人、どんな時に頼らせてもらえるやろ?」と思うようになりました(笑)。
それは(仕事の関係上)お互いさまのところもあって、数か月前にちょっと名刺交換しただけの人から電話で、「こういうお母さんがいて、野中さんのことを思い出したから、紹介してもいいですか?」なんて言われたりすると、「あ、それでいいんだ!」と。新米のときは分からなかったけど、連絡先さえ知っていたら、こうやって頼んでいいんだ。」と思えてきたんです。
それ以来会う人会う人、みんな人材ストックであることを意識にするようになっています。だから頼まれたことを極力断らないというのは、実は計算高いというところもあって、こっちが次に頼みやすいというのもあるかもしれないですね(笑)。
(※1)フードドライブとは、家庭で余っている食べ物を学校や職場などに持ち寄り、それらを取りまとめて地域の福祉団体や施設、フードバンクなどに寄付する活動です。
社会福祉士であることの醍醐味
社会福祉士の国家資格を持っていますが取得したのはいつ?
ちょうど10年前です。社会福祉士になったことはものすごく大きいですね。なぜかというと、社会資源の活用って「もの」があるわけではなく、絶対「人」ですから。社会福祉士の相談業務の中で1対1から始まりますが、自分で何かすることは少ないんです。医師と違って診断もできないし…。
では何ができるかというと、誰かと誰か、誰かと何かをつなげることが役割で、一番オイシイところだと私は思っているんです。だからどれだけ人と知り合っているかが一番だなと常々思っているんです。
(名刺には)保育士も持っているけど、これまでの経歴は保育士から?
離婚後2年して、保育士を取りたいと思い、大学に入ろうと社会人入学の話しを聞きに行ったときに初めて社会福祉士の資格のことを知ったんです。
最初に保育士を取ろうと思ったのも、子どもの福祉に関わる仕事がしたいな、じゃあ保育士だと思ったから。大学の説明会で社会福祉士の資格取得も目指せることを知って、これだ!両方取ろう!と思ったんです。
では、福祉士の前に保育士の仕事をしていたわけではないんだ?
はい、離婚する前はほぼ専業主婦でした。子育てをする中で子どもの精神発達に興味があり、いろいろな本を読んだんです。杉山春さんの本を読んだり、天童荒太さんの「永遠の子」を読んだりした時に、子どもの虐待に関して幼少期の大切さ、幼少期の影響を知り、なるべく小さい子どもの福祉に関わりたいと思ったんです。
「シングルマザー交流会松山」を始めたのは社会福祉士を取るずっと前で、16年前、離婚した直後ですね。その当時は当事者として会にかかわっていました。個別に相談したいという人もちらほら出てきて、会って話しを聞くんですけど、最初は、すごく壮絶なDVの話など2時間聞くと、それを持ち帰ってしまって寝込んでいたんです。
公的な制度に関しても、社会のシステムに関しても知識が乏しいこと思い知ることも多く、このままでは薄っぺらな活動しかできないし、続けられないと思ったんです。だから保育士・社会福祉士を取るために学んで得る知識がこの活動にも行かせられると思ったし、相談援助技術って学んで身につけるものだと思ったんです。
プロは持って帰っちゃダメなんですよね。それが4年間の学びの中でだんだんわかってきたんです。すると相談援助ができてきたんです。寄り添っているけれど、混同しない、ってことがだんだん分かってきて、私すごく感激しました。
もちろん今も持ち帰ってしまうこともあるけれど、昔ほどではなくなった。だから資格を取ってからは、当事者でもあり、専門職としても会にかかわれて、良かったなと思えるんです。当事者の視点、専門職(相談援助)の視点の両方で見ることができるから。
大学を卒業して、3年間松前町でスクールソーシャルワーカーとして働き、その後小児慢性疾病をもつ子どもと家庭の支援をするNPO法人に2年在籍し、いよいよ独立となるわけですが、そのきっかけは?
(NPO法人)ラ・ファミリエで働きながら清水ふれあいセンターでの子ども食堂は始めていたんです。鉄砲町に7年前に越してきていて、そらいろのたねのあるこの場所は、当時パン屋さんだったんです。高齢のご夫妻が営んでいらして、ここで常設の子ども食堂ができたらなぁ思ってたんです。
そうしたら、ある日突然パン屋さんが閉店して…。
急なことだったので、とても悩みました。次のテナントが入るといつ出ていくか分からないしれならもう!ということで、決断しました。
行動しながら、問題に当たったら、その時は何とかなるだろと?
そうですね。もともと私に計画性なんて…(笑)
で、困ったときには、あの人に、この人にと?
そうです。そうです。私、愛媛県社会福祉士会に入っていて、そこで一部の先輩会員から「はぐれ社会福祉士」と呼ばれていているんです。でもその呼ばれ方大好きなんですよ。社会福祉士として「仕事」をしてない会員はあまりいないからでしょうかね。
バリアフリーと基本的人権
野中さんにとっての社会課題の解決、バリアをフリーとするために必要なことは?
基本的な人権が守られていることが当然な社会ですね。まだまだなんですよ。女性にしても、シングルマザーにしても、障害のある人にしても、さまざまなマイノリティー、それに子どもにしてもまだまだです。子どもの権利条約なんて一体いつになったら日本に浸透するのでしょう。当然有ることに対して自分で主張しないといけないなんてレベルが低いと思うんです。あとは自己責任論のない社会ですよね。
自己責任論のない社会とは?
シングルマザーは無意識に自己責任論でがんじがらめなんです。コロナ禍のシングルマザーについて取材を受けて紙面になった後、高齢男性から電話がかかってきたことがありました。「離婚してお金がない、しんどいしんどい言うてね、国や行政にあれせいこれせいというのなら、もうちょっと我慢して離婚せずにおったらすんだやろ。」と。「暴力をふるったりする相手でもですか?」と言っても、「そりゃ、見る目がなかったんやろが。」と。「結局お前の責任や、人のせいにするな」と。そういうような言われ方を、大なり小なりみんなが経験してきています。
だからお母さんたちも、「コロナでこんなになってしんどいんですよ」とか言いにくいんですよね。これまでに「ほやけど、もともと自分がいかんのやろ。」と言われ続けてきているから。
だから、うちに連絡してくるお母さんに、「うちでも食糧支援とかしよるから、送ろか?取りに来る?お米持って帰る?」と言っても、「いえ、うちはまだ大丈夫なんで。もっとしんどい人がいると思うんで。」と言う人が少なくないんですよ。
「あのね、それは相対化することじゃないよ。人としんどさなんて比べることじゃないよ。」とこの2年間何人の人に言ってきたか分からない。「自分がしんどいと思たたらしんどいんよ。それでいいんよ。人と比べたら余計にしんどくなるよ。」と繰り返し言わないと伝わらないんですよ。これまでずっと遠慮しながら、そうやって生きて来ざるを得なかったお母さんたち。それは「自己責任だから」と言われ続けているからです。
そもそも子どもの貧困って、もとは女性の貧困によるところが大きいですね。母子家庭の貧困率が高いから子どもの貧困率を上げているという一面がありますよね。なぜ母子家庭が貧困かという大きな要因の一つは、男女の賃金格差と社会保障制度の機能不全なんですよ。それは社会が作ってきたものであって、今まで許してきたものであって、母親だってできることなら本当は自分一人の経済力で育てたいんですよ。それがなぜできないかを考えると、決して自己責任だけではないと私は思っていて、そこに立ち向かいたいと私は思っているんです。
だから子ども食堂に行政がお金(補助金等)を出すというのも、私は反対で、本末転倒だと思ってます。
女性の問題を解決していくこと~賃金格差、正社員問題など~基本的人権の問題を解決していくことによって、自ずと解決していくと?
そうですね。その波及で良くなっていくと思います。今私がやれているのは小手先のことばかりですから、貧困の解決には絶対ならないのです。
子ども食堂にしても、シングルマザー支援にしても、やれることは、傷ついたところに絆創膏を貼るような対症療法です。社会の問題に対して見るに見かねた一般市民がやってきたことです。子ども食堂では、子どもの貧困の根本的な解決にはなりません。
それに対して行政が、子どもの貧困対策にできることがありますよ、みなさん子ども食堂をやりましょうというのは、「そうやないやろ!」と腹が立つんです。行政には根本的なところの問題解決にこそ力を注いで取り組んで欲しい。でないと解決する問題ではないのです。
では今後の目標としては、現在の活動を通じて人権のベースをあげていくようなことを?
そうですね、アドボカシーの意識をもってソーシャルアクションも続けていきたいです。今、東京のNPO法人しんぐるまざあず・ふぉーらむが中心になって活動しているシングルマザーサポート団体全国協議会というのがあって、それで全国の団体ともつながっています。そこから中央の動きを学んだり、政策提言などの働きかけを一緒にやっています。
児童扶養手当の受け取りが4か月に1回から2ヶ月に1回に3年前に改正されたことも当事者団体が訴えてきたものです。
ひとり親の寡婦控除に関しても、婚姻歴のない未婚のシングルマザーは寡婦控除の対象にずっとなっていなかったのが、未婚のひとり親(シングルファザー含む)へ控除の適用が2年前に実現しました。それも当事者が長年訴えてきたことが叶ったものです。
県内、全国ともに着々と成果を上げているんですね。最後にこれから社会課題に取り組もうとする人、社会福祉士を目指す人・若者へひと言メッセージを。
やっぱり「人と知り合え!」ということかな。それに尽きますね。やっぱり人には傷つけられもしますけど、癒してくれるのも人でしかないので。たまに私の場合はネコでもあるけど(笑)…、やっぱり人です。
どんどん人と出会って!社会福祉士なら、人と出会ってなんぼです。決して奪われない宝物、資源ですよね。プライスレスですよ!!
称号贈ります!
さて、今回の2回に分けてお送りしたソーシャルワーカーインタビューはいかがでしたでしょうか?
インタビューにも載せていますが、野中さんは社会福祉士の資格を持っています。けれどもその活動は一般的な社会福祉士の働き方とは少々(?)違ったスタイルとなっています。そのため社会福祉士仲間から「はぐれ社会福祉士」とも呼ばれているそうですが、おでかけイーヨではそんな独自の視点で独自の活動をする彼女に敬意込めて「福祉士(ふくしザムライ)」の称号を贈りたいと思います。
現在の日本社会に必要なのは彼女のような社会課題を解決しようと行動するサムライではないでしょうか?
彼女の今後の活動に注目するとともに、応援していきたいと思います。
インタビュー:2022年(令和4年)6月
聴き手:Eikyo