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【BFI】太田さんに聞く聴覚障害、聴導犬、相互理解のこと

#聴覚障害 #聴導犬 #相互理解 #コミュニケーション #介助犬

聴導犬ってどんなことをしてくれるの?

前回学びのバリフリーとして、取材に応じていただいた愛媛大学アクセシビリティ支援室の太田琢磨さん。実は太田さんは聴覚障害があり、聴導犬を飼われている数少ない愛媛県人でもあるのです。そこで今回は聴導犬のこと、聴覚障害のこと、そして相互理解についてお話しを伺いました。

太田さんと聴導犬ベル

〇聴導犬って愛媛ではまだまだ珍しいと思うのですけど、まず聴導犬とはどういうことをしてくれるのでしょう?

基本的には(私の)耳の代わりをしてくれます。例えば私の場合補聴器を外してしまうと何も聞こえなくなるので、家だと玄関のチャイムが鳴った時、目覚まし時計、電子音等がなった時に教えるということになります。学校だとチャイムの音、チャイムが鳴ったら教えに来るように教えています。あと火災報知器がなった時に教えに来ることも重要な仕事ですね。

〇学校のチャイムの音は、授業の始まりや終わりの音ですね。

はい、あと10分後になると思うので、そのタイミングで見てもらえれば。

〇どのような形で教えてくれるのですか?

基本的には(膝を)タッチ、この子の場合は前足でタッチするという方法ですね。

〇聴導犬によって、音を知らせる方法が違うのですか?

小型犬の場合は前足でタッチして教えることが多いですね。大型犬の場合前足でタッチすると、人を吹っ飛ばしてしまうこともあるので、鼻でフ~ンと押し上げるような形で教えることが多いですね。

〇大型犬の聴導犬もいるのですか?

はい、います。

〇盲導犬だと、ゴールデンレッドリバーやラブラドールなどの大型犬がほとんどだと思うのですが、聴導犬だとこのような小型犬でもなれるのですね。

小型犬でもできます。力仕事がないので小型犬でも活躍できるのです。

普段は太田さんのそばで待機してます。

〇太田さんはいつから聴導犬を飼われているのですか?

訓練を含めたら大体8年目ぐらいですね。

〇聴導犬を飼い始めて、生活面で変わったことってどのようなことがありますか?

ある程度自分が分からないことを任せることができるようになったので、楽になった部分がありますね。例えば今まで宅急便が来るときに、チャイムの音が分からずに何度も持ち帰られたことがあるんです。時間指定はするけれど、それでもやはりいつ来るか分からないし、ずっと意識を集中していることはしんどいんです。でも聴導犬がいると来たら教えてくれるので、他のことをしながら待っていられるようになりました。

〇前足でタッチをして教えてくれた際に、スマホの音、チャイムの音など何の音なのかどのようにして判断するのですか?

大体この時間に教えてくれたのは、これかな?と関連付けしています。例えば今日は宅急便の荷物が届くなら、この時間なら宅急便かなと…。今は職場なので、もしタッチしたら職場内で何かなっているなと。あと、必要な場合には誘導もしてくれます。どこ?ってやった時には、音源まで誘導してくれ、音源まで行ったら、玄関の音だ、電子レンジの音だと分かります。

〇なるほど~。ちなみに盲導犬だとハーネスをつけている間が仕事となり、盲導犬もそのことを分かっているようですが、聴導犬の場合はどうなのでしょう?

介助犬もそうですけど、聴導犬は基本24時間営業ですね。僕に必要な音があったら仕事、なかったら待機状態ということになります。ですから今は待機状態です。今ケープをつけていますが、これは外にいる間はつけているだけで、家にいるときは外しています。それでも必要な音が出たらお仕事になります。

〇愛媛に聴導犬はどのくらいいるのでしょう?

現在3頭います。私以外にあと2人聴導犬を飼っています。そのうち一人は愛大の学生で聴導犬を連れて来ています。

〇これは盲導犬、介助犬も一緒だと思うのですが、聴導犬に対して、私たちが気を付けることってどのようなことでしょう?

まず、なでたりしないこと、触らないこと。目を見ない、話しかけない、触らないですね。

〇外に出るときには必ずケープ(服)をつけているのですか?

外に出るときは必ずつけています。なのでケープをつけている時には見守りをお願いしたいですね。エミフルとか行くと子どもが寄ってきて大変なんですよ(※1)。多分小型犬だから。大型犬だと、みんな寄って来ないと言いますね。

(※1 ~編集者より~ 特に小さなお子さんたちは小型犬を見ると衝動的に触りたくなるのだと思います。お父さん、お母さん、子供たちに聴導犬でお仕事中であること、触らないことを教えてあげてください。飼い主(聴覚障害者本人)はその場ではなかなか言えないと思います。)

聴覚障害について

〇聴覚障害は目に見えない、外から見て分からない障害だと思いますが、私たちに知ってもらいたいことは何かありますか?

私はあまりないのですが、他の補助犬を連れた人で、入店を拒否されたということをよく聞きます。そういう時に周りの人が正しい知識を伝えて、説明してくれるとありがたいなと思います。

〇ケープをつけていても入店を拒否されることがあるのですか?

ありますね。

〇小型犬だと最近流行りなので、ペットと間違えられて拒否される訳では?

結構ペットに間違えられるというのは、小型犬の運命ですけど、そのたびに違うよと言っているんですけど…。それで分かってくれて入店OKとなるところもあります。

〇ところで太田さんはいつから耳の障害を?

生後9か月です。生後九か月で病気になって、そのあとから急に耳が聞こえなくなったと親から聞いてます。

〇これまでの人生の中で、いろいろな障害者に対する制度等が出来てきたと思いますが、QOL(※2)は向上していますか?

ひとりで生きていくうえで、20年ぐらい前私が高校生の時にポケベルとかピッチが出てきました。聴覚障害者はこれらのお陰で文字でコミュニケーション出来るようになり、聴覚障害者にとって必要な器具だったんですよね。そこから更に次の世代のものが出てきていますが、そういう意味で…

(この時授業の終わりのチャイムが鳴る)
ベルが起き上がり、太田さんの膝に前足でタッチする。教えてくれた際にはご褒美のおやつをひとつあげる。

音を知らせてくれたご褒美のおやつを!

〇そうやってご褒美を上げるんですね~。
 元に戻ってQOLの向上は?

そういう意味でのITからITC(※3)に代わり、そういうテクノロジーに助けられているのは非常に大きいと思います。かといってテクノロジーが万能かというとそうでもなくて、やはりQOLという観点から言うと、何かの講演に行こうとか、面白そうなイベントがあるなという時に、やはりそこにはまだ通訳はないのです。もしそういう要望をしてもおそらく断られますし、そういうパターンが多いので…。そういうことを考えるとQOLが上がったところもあると思いますし、やはり心のバリアに関してはまだあまり変わっていないなと感じることもあります。

※2 QOLとは、Quality of life(クオリティ オブ ライフ)は「生活の質」「生命の質」などと訳され、生きる上での満足度をあらわす指標のひとつ。心身ともに健康であるか、自立した生活できるか、社会と関わりを持っているかなどの要素がある。

※3 ITとICT
ITはInformation Technology(情報技術)の略で、コンピューターやソフトウェアなど情報技術そのもの。
ICTはInformation and Communication Technology(情報通信技術)の略で、メール・ネット検索・SNSの活用など通信技術を使って、人とインターネット、人と人がつながる技術のこと。

〇実は私、今回が聴覚障害の人と話すのは初めてなので少しドキドキしています。(聴覚障害の人に対する)心のバリアってどうやって取り外していけばいいのでしょう?

そうですね、一般的なイメージとして聴覚障害の人=完全に聞こえない、話せないという思い込みが強いと思うのです。そこから更に何もできないと思われてしまうことも多いと思うんです。これ合理的配慮の提供の基本中の基本なんですけれど、まずは本人が何をしてほしいか、訊くということ。本人が言えるような土台を作って上げるということが大切だと思うんです。

コロナが始まりマスク生活となって、そのたびに聞き返すのはめんどくさいので、私もコンビニなどでは何も話さないで買い物を済ませたり、また機器の利用等で予防的な対策をたてたりしているのですが、(※4)ひとつ大事なことは、

もし聴覚障害がある人がいると知ったら、周りの人がどういうコミュニケーションがいいのか、まず聞いてくれたらと思うんです。そしたらじゃあこうしてと言えるんです。中にははっと気が付いて紙に書いてくれたりもする人もいますが、それはそれでありがたいんですが、そこまでは必要ない時もあるので、まずはどういうコミュニケーション方法がいい?書いた方がいい?って聞いてくれ、そのうえでスタートしてくれたらいいなと思います。

やっぱり分からなければ聞くってことが簡単そうで難しいのだと思います。もし街中で見かけたときも、まずは聞くということが自然に出来る人が増えてくれるといいなと思います。

※4 機器の利用
太田さんは補聴器や音声認識アプリ(発言をリアルタイムで認識、文字化する)などを利用しています。

相互理解のために必要なこと

〇先にも言いましたが、聴覚障害って見えない障害ですよね、もし初めて会う人が声かけたとき、最初どうしても無視してしまうようなカタチとなってしまうではないですか。すると声かけた人は「何?シカト?」とイラっとしてしまうこともあると思います。障害があると分かって初めて「あ、そうか!」となるのでしょうが、これって仕方ないことでしょうか?

そうですね、あと、これは聴覚障害だけではないのですが、何かしてもらえるのを待ってしまう障害者側にも問題があると思います。ここ(アクセシビリティ支援室)に来る学生たちに、例えば車いすの子だったら、一番最初に私と挨拶をしてエレベーターに乗ります。でもその時私は何もしません。それで本人が初めて自分から伝えないといけないんだということに気が付けさせなければならないんです。やっぱり何をしてほしいのかということを自分から伝える力を障害者が身につけていないというところが、法律があったとしても宝の持ち腐れになってしまうと思うんです。

ちょっと最初の支援の話に戻りますが、私たちの仕事は合理的配慮の提供ということはもちろんのことですが、それと同時に合理的配慮を上手く利用するための教育的支援も両輪としてやっています。というのはそれが私たちの仕事の大きなポイントなると思うからです。例えば聴覚障害の学生にこういう時に支援をしてもらうに当たって何を伝えておかなければならないのか、もしかすると福祉的、ソーシャルワークの利用となるかもしれませんが、そういう社会に出るためのトレーニングも含まれていると思うんですね。なので非常に複雑的な仕事なので、逆にアクセシビリティという言葉がもちろん待ってくれば出て来るものではないということを学生たち、障害がある人たちが理解しなければならないことだと思いますね。

〇差別解消法が出来き、合理的配慮の提供が受けられるようになったからと言って、それを待っているのではなく、何をしてほしいか自分から伝えるということですか。

そうですね。自分から働きかけられる障害のある人を増やしていかないと、やはり社会進出も進んでいかないのかなと私は思います。やはり企業としても待っていられても困るし、逆に企業も何をして欲しいか言って欲しい、お互いが遠慮してバチバチしているというか、遠慮したままどんどん離れていってしまう。

私がアメリカで大学院にいたときに、いろいろと大学を回って障害のある学生の支援の現場を調査させてもらったんですけれど、みんなはっきり言うんです。これはやって欲しい、これはやって欲しくないとはっきり言うんですね。それがあるからアメリカではADA法(※5)が成立して以降、障害者が力をつけてきて、そこで恩恵を受けた人たちが、今度は高度専門職について活躍し始めている時代なんですね。

もちろん支援を充実させることも大切なんですけれど、障害者が自分から働きかけて周りを動かしているというところも、別の観点からしっかり見ていかなければならないと思うんですね。待っているだけでなくて、こちらから伝えていくこと。それがなければせっかく障害者差別解消法ができたものの、いわゆる仏造って魂入れず状態になってしまうのではないかと。

〇提供する立場の者が、どのような(合理的)配慮を提供するかを考えるだけでなく、受け手もこういう配慮が欲しいということを伝え、それができるのかどうか、またそれが合理的であるかどうか検討し合う必要があるのですね。

※5 ADA法
障害を持つアメリカ人法(ADA)1990年7月成立。この法律は、1964年制定の公民権法が人種、性別、出身国、宗教による差別禁止をしていたのと同様に、障害を持つ人が米国社会に完全に参加できることを保証したものです。
障害を持つアメリカ人法の基礎 / Basics of the ADA )より

〇最後に「おでかいーよ」を見てくれたことがあるそうですが、聴覚障害に対してどんなことが掲載されていると役に立つのでしょう?とりあえず耳のマークがあれば写真にとって載せたりしているのですが…??

あのマークありがたいんですけど、やはり筆談をするにしても、ただ書けばいいというものでもないし、時に要約されて結論だけが出てきたりするという…。また逆にある程度聞き取れる人にとっては、いきなり筆談されても困るってこともあるんですよね。そのあたりの社内教育をしてもらえるとありがたいですね。

そういうことを考えると、やはり障害がある人がまちに出たときにもっと書いてといったり、そういう状況をもっと作っていくということが先かなとも思います。だから先にも言いましたが、どういうコミュニケーションを取ればいいか、確認してということが一番大切ですよね。その中には手話もあるかもしれませんし、もちろん双方が手話を知っていれば、一番それがコミュニケーションとして早いということもあるでしょうしね。そのようにお互いが理解しようとすることが大切だと思います。


2回にわたり愛媛大学アクセシビリティ支援室の太田さんへのインタビューをお届けしました。インタビューの中にも出てきますが、聴覚障害の方と話すのは初めてで最初はどうすればよいのだろうと少々ドキドキしました。

何ごともそうですが、初めてというものは緊張を伴います。けれどもその先には新しい世界が待ってます。今回もその体験ができました。障害のある人も、ない人もそれぞれの一歩を踏み出しましょう。そこにお互いの歩み寄りが生まれます。

  



インタビュー:2022年(令和4年)11月

聴き手:Eikyo